【私たちの見聞録】高校生・大学生とシニア 学校での交流プログラム実施レポート

BABA labでは、2020年からシニアと大学生の交流の場をつくってきました。昨年からは、高校生向けにも「高校生とシニアの交流プログラム」の企画提案をしています。
今回は、そのプログラムについてレポートします。

<大学編>
シニアとのコミュニケーションが怖い?

今年、BABA labが企画提案した「高校生とシニアの交流プログラム」に東京都立高校の3校が手をあげてくれました。

この企画提案をすることになったきっかけは、コロナ禍にとある短期大学の先生から届いた一通のメールでした。その短大では、多くの学生が卒業と同時に販売員や美容部員として就職するそうです。接客の相手にはシニア層も含まれるのに、その年齢層と話したことがない学生が多く、うまくコミュニケーションができずに離職につながって問題になっているとのことでした。

祖父母と同居している学生は少なく、それに加えて人との交流を制限されていた時期だったため、本来ならばアルバイトなどで経験するはずのこともできずじまいとなっていて、シニアと話す機会がつくれないかと、かなり切羽詰まった様子の相談でした。

よくぞわたしたちを見つけてくださったとひそかに思いました。ただ、当時はコロナ禍で都内の学校まで行くのは難しい。そこで、学生とBABA labさいたま工房(以下、工房)のスタッフをZoomでつなぎ、話すテーマを決めて数回おしゃべりをする会を企画しました。時間が限られていたり(短大はカリキュラムが密で忙しいとのこと)、工房スタッフがZoomで話すことに不慣れだったりして、「たくさん話して離職率が下がった!」と言った大きな効果につながったわけではありません。

スタッフ1名に、学生が数名というグループをいくつか作り、「どんなことを勉強しているの?」「どこ出身?」と言った自己紹介的な会話から始まり、「昨日何食べた?」という話題から料理の作り方に話が広がったグループもありました。

BABA labさいたま工房では、毎年、大学生のインターンの受け入れもしています。研究を目的とした生徒もいれば、おばあちゃんと交流したい!という生徒もいます。

オンラインからリアルの交流へ 大学生とシニアお互いの学び

短期大学との交流はその後も続きました。工房スタッフだけだと女性に固まってしまうので、他のシニア団体にも協力を仰ぎ、男性にも参加してもらうようにしました。

シニアと学生となるとどうしてもシニアが学生に教えるという構図を想像してしまいます。そのころ世の中に出回り始めたChatGPTやCanvaは、シニアには便利なものという情報は入ってくるものの、どうやって使えばいいのかはよくわからないというものでした。

一方学生は、学校の課題で使うほど使いこなしています。ある年は、シニアが健康にまつわるカルタの読み句を考え、学生がそれをもとにCanvaで絵札を作ったり、別の年はChatGPTを使って短編小説をつくったりしました。

コミュニケーションを円滑にするためにはどちらか一方が”教える”ということではなく、”教えあう”や”お互い楽しむ”というのが理想なのではないかという考えにいたりました。

<高校編>
高校生とシニアの交流づくりにチャレンジ

交流のあった短期大学は四年制大学への移行となり、交流はいったん終了となったころ、「東京都のインクルーシブな学びプログラム事業」に応募することが決まりました。

インクルーシブな学びプログラム事業とは、東京都が実施する都立高校生向けの事業です。社会にあるさまざまなバリアを体験的に理解し、多様性を認め合える共生社会づくりの必要性を理解することを目的にしています。

大学生との交流を通じ、祖父母世代と同居や近居をしていない学生にとって、異年齢の人と関わる機会が少ないことが”理解”の妨げになっていることが分かりました。BABA labとしてどのようなプログラムを提供できるかを考えたとき、“手芸”が頭に浮かびました。”教え合う”や”お互い楽しむ”という面でも手芸はもってこいのツールです。

工房ではこれまでも幼児や小学生とその親を対象とした手芸のワークショップを企画してきました。安全面や終わった後の満足度、季節感、実用性などさまざまなことを考えて企画します。

幼い子どもが参加することを考えると、針を使ったものはこれまで避けてきました。ただ、今回は高校生向けなので、針を使っても大丈夫と判断し、せっかくならば自分で作ったものを使ってほしい、さらに選ぶ楽しさがあればいいと考え、「あずま袋」と「指編みのシュシュ」どちらかひとつを選んで“シニア講師スタッフ”と一緒につくる企画が誕生しました。

※あずま袋とは…縦横の比率が1:3の生地を折りたたみ、二か所を縫い合わせるとできるいわばエコバック。昔は、着物のハギレなどで作っていたそうで、生地の比率をそろえれば様々な大きさで袋をつくることができます。

80代の工房スタッフの母親が作っていたさまざまな大きさのあずま袋を見せてもらったことがあり、母親が着ていた着物のハギレで作られていて、思い出も詰まっていると話してくれました。

※指編みのシュシュとは…毛糸を幾重にもゴムに編みこんでつくるヘアアクセサリー。毛糸によって大振りになったりシンプルになったりします。髪の毛だけでなく、両腕につけて服の袖を止めることもでき、毛糸を選べば、クリスマスリースにもできることを授業の中で紹介しました。

工房での準備 ~高校まで通えないシニアの活躍~

「あずま袋」と「指編みのシュシュ」は、あらかじめ材料や説明書をセットして袋に詰めておくようにしました。既定の大きさや量に切ったものを折りたたみ、細かい材料は無くならないようにテープで止めます。

選ぶ楽しさを味わってもらうため、柄がきれいに見えるようにたたみ方を工夫し、制作工程が難しいところは折り目をつけておくなどの工夫も準備を担う工房スタッフの意見を取り入れました。

こうして電車やバスに乗って高校まで行くことが難しい年齢のスタッフには準備を担ってもらうことで、事業にかかわってもらいました。この準備の様子も高校でパネルを使って説明しました。

「どんな柄が人気があるかな?」「手芸が初めての子にもわかるかな?」などおしゃべりをしながらキットを準備しました。

講師役の練習会

高校に出向く講師役は、手芸の技術よりも「高校生と交流してみたい」という熱意がある「シニア講師スタッフ(以下、講師スタッフ)」を新たに集めることからスタートしました。

孫がいるという人もいましたが、すでに成人していたり、遠くに住んでいたり、近くにいてもなかなか交流の機会がなかったりするそうです。あずま袋やシュシュをつくるポイントを取得した後は、それぞれの講師スタッフが好きなこと、これまでやってきたこと、これからやってみたいことなどを高校生に話してほしいことと伝えました。

さらに、高校生の方ができることや上手なことがあったら、学んできてほしいことも共有しました。講師スタッフにはお揃いのエプロンと呼んでほしいニックネームを書いたネームプレートを準備して、BABAlabの紹介チラシやセット済みの材料も整え、当日を迎えました。

講師役を担うスタッフたちの講習会。作業の行程を何度も確認しました。

いざ!初めて高校へ!

当日は、30分前に高校へ到着するよう、さいたま市各地から電車とバスを乗り継いで高校へ向かいました。暑い日だったので、バスが高校の目の前に到着したのは嬉しい誤算でした。

都会の真ん中に建つその高校は7階建てで、運動場は屋内にあるという先生の話に講師スタッフはびっくり。この高校では、家庭科の授業の1コマとして我々の企画を採用してもらいました。家庭科室に入り、準備をしながら参加する生徒が席に着くのを待ちます。

通信制学校の特性上、参加する生徒の数は授業の開始時間にならないと分からないとのことで、一人目の生徒が入ってきた時は思わず笑みがもれ、ホッとしました。開始時間までには、ちょうど家庭科室の椅子が埋まるくらいの生徒が集まりました。

すでに生徒たちは高齢者疑似体験などを学習済みと担当の先生の話のあと、BABA labがどのような活動をしている会社なのかについて10分ほど説明しました。資料を見ながら大きくうなずいてくれる生徒もいて、こちらの緊張もほどけていきます。

今日どのようなことをするのかについてあずま袋とシュシュの実物を見せながら説明し、今日の講師スタッフを紹介した後、作りたいものの材料を選んで机についてもらいました。どちらも浴衣に合うことを伝えると、花火大会に行くことを予定している生徒たちは浴衣に合うものを選んでいたのが印象的でした。

生徒5~6名に対して、講師役が1名つき、材料を袋から出し、作業を始めました。作業をしながら話した内容は、様々で生徒は自分の祖父母の話、なぜこの材料で作ろうと思ったのか、部活動は何をしているのか、どうしてこの高校に入ろうと思ったのかなど、話に夢中になって手が止まってしまうことや自分は話さず、みんなの話をただ聞いている生徒もいました。

さらに早くできてしまい、もう一方の作っていない方も作ってみたいと興味を示す生徒もいて嬉しかったです(残念ながら今回はどちらか一つをつくるという約束)。当初、あずま袋とシュシュは同じくらいの製作時間だと予想していましたが、シュシュのグループが早くできてしまい、そのグループは講師を交代して話す内容を変えることで対応しました。あずま袋のグループは、縫うことよりも針に糸を通したり、玉結びをするのに時間がかかりました。時間の配分や準備の方法は改善の余地がありそうです。

 出来上がったシュシュは腕に通したり、髪の毛を結んだりしている生徒が目立ちました。あずま袋は、体操着入れやランチ入れにする、浴衣と一緒に使うという生徒たち、さらに、意外と簡単にできると感心する生徒もいました。

最後に、あずま袋は様々な大きさで作れることやシュシュは100円均一ショップの毛糸で数個作れることを紹介しました。ちょっと時間があるときに、手芸を楽しんだり、できれば文化祭の出し物に活かしてほしいといったことも伝えて終了となりました。

プログラムが終了して、講師スタッフもほっとしました。

帰り道で

帰りも学校の目の前のバス停から、最寄り駅へ向かいます。講師スタッフと生徒のグループでどのようなことを話したのか、これからもっとよくしていくにはどうしたらいいのかなどどんどん意見が出てきました。

短い時間の中でよい時間を過ごせた証拠に講師スタッフが自然と「うちの子たちはね」と前置きして話始める姿が印象的でした。生徒たちの感想はまだ聞けていませんが、もう一度あずま袋やシュシュを作ってみたり、「年をとっても私たちと変わらないところもあるのだな」などとふと思い出したりしてくれるといいです。


レポート:横地真子(BABA lab)

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