誰もが長生きする社会。シニアとこれからシニアになる人たちと「長生きするのも悪くない」と思える仕組みをつくっていきます。
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地域の人が集う
「コミュニティ・カフェ」のはじめ方

『下町カフェ・あみちえ』(東京都葛飾区立石)

 

少子高齢化の波が押し寄せ、地域社会の近隣関係が希薄になっている中、改めて地域で暮らす人々の「つながり」を組み立てる動きとして「コミュニティ・カフェ」の手法が注目されてきました。孤独な高齢者が互いに出会える場、子育て家族の交流の場、障がい者の働く場、子どもたちの遊び場など、活動内容は実にさまざまです。

東京下町のディープな飲み屋街「呑んべ横丁」で名を知られる葛飾区立石に2014年3月に誕生した『下町カフェ・あみちえ』を取材してきました。

 

コミュニティ・カフェ的な仕掛け

京成立石駅北口から徒歩7分ほど歩くと、手書きのロゴの看板を目印に『下町カフェ あみちえ』(以下、あみちえ)が見えてきます。オープン以来、「立石のコミュニティ・カフェ」として連日地域の個性ある面々が訪れるお店となっています。営業時間は、朝11時から夜9時まで(曜日によって異なる)で、主な客層は女性ですが、ランチには近所で働いている人や子連れのお母さんたちが、夜は一人暮らしのシニア、家族連れが訪れているとのこと。店内のつくりは、カウンター席の奥のスペースに置いてある存在感たっぷりの大きな「一枚板のテーブル」が特徴で、見知らぬお客さん同士が相席をきっかけにご飯を食べながら膝を交えた関係に自然になって欲しいというオーナーの強い想いが込められています。

 

一方、「コミュニティ・カフェ」の手法が注目されているとはいえ、立石で暮らしている人々の多くは、普通のカフェとの違いを知りません。だからこそ、コミュニティ・カフェの象徴として「一枚板のテーブル」を店舗空間に設置したり、絵画やフラワーアレンジメントなどの市民講座をお店で開催して、「人とのつながり」を作る仕掛けをたくさん用意しています。なかでもコミュニティ・カフェとしてもっとも特徴的な取り組みは『立石おたがいさま食堂』という試みです。2015年11月から月一回開催されているもので、参加者がその日のメニューを一緒に作って食べるというもの。料理を一緒に作ることで、初めての人でもすぐに場に馴染み、食べる頃には参加者同士がすっかり仲良くなります。障がい者や引きこもりだった方も来ていて、おたがいさま食堂がきっかけでスタッフになった人もいるそうです。

 

ゼロからイチを生み出す

「あみちえ」のオーナーは、1948年生まれの石川寛子さん。オープンした当時は65歳でした。NHKの番組ディレクターを経て、フリーの映像作家として活躍後、縁あって葛飾区市民活動支援センター(以下、支援センター)に勤務することになったという経歴の持ち主です(※詳しくは新・生き方辞典vol.01をご覧ください)。

支援センターでは、市民講座の企画を担当し、地元の歴史や自然などを学ぶ地域学講座を開講するなど、講座を通じてたくさんの地元の人たちとの交流が生まれました。そういうなかで、「自分の住む地域に気軽に立ち寄れて、おしゃべりのできる場を作りたい」との気持ちが石川さんの中にふつふつと沸き、いろいろと調べているうちに出会ったのが「コミュニティ・カフェ」だったのです。「思い立ったら動かずにいられない」という行動派の石川さん。最初の一歩は、すぐに既存のコミュニティ・カフェ講座を探して通ったこと。そして、次に仲間を集めるべく、今度は自らが「コミュニティ・カフェを作ろう講座」を企画したのが大きな転機になりました。「なければつくればいい」。ゼロからイチを生み出すその姿勢が、まさにあみちえの原点。その時の参加メンバーの数人が、実際に「あみちえ」の立ち上げメンバーになっています。

しかし、単発的な「イベント」とは異なり、「店舗」を持つというのは簡単なことではありません。土地も常連客も必要になります。そこで、石川さんはオープン前に古民家を半日貸し切り、「プレコミュニティ・カフェ」として実験的に開店したところ、約70名の方が来場し、住民も望んでいることだと改めて確信。残された課題は「場所」だけでした。古民家でのプレカフェ成功から、本格的にコミュニティ・カフェを立ち上げようと動き始めた石川さんは、持ち前のバイタリティで場所探しに奔走します。なかなか思うような場所が見つからないなかで、協力してくれたのが居酒屋の主人・まことさんでした。「店主のまことさんはその時体調を崩していて、居酒屋『まこと』が休業閉店中と聞いたんです。そこで、すぐにまことさんと交渉。というか、拝み倒しました(笑)。格安の家賃と内装のリフォームもOKしてもらって」リフォーム予算は限られていたため、居酒屋を居抜きで活用しつつ、地元の工務店さんに安く改装してもらい、壁塗りや椅子の張替などはスタッフや友人ボランティアの協力で。いろいろな人の手を借りながら『下町カフェ あみちえ』は2014年3月に無事オープンとなったのです。

 

お互いの凸凹を補う関係性

現在、「あみちえ」のメインスタッフは3名いますが、その人数だけでお店を運営していくのは至難の業です。そこで、コミュニティ・カフェに欠かせないのが「ボランティアスタッフ」の存在。そんな部下でも社員でもない独特の関係を調整するのが、講座受講の時から立ち上げスタッフとなった高橋智子さんの役割になっています。

「私は主に調理とボランティアスタッフのシフト調整係をしています。ボランティアスタッフは、週1、2回の人もいれば、平日会社で働いている人はお休みの日に出勤など、その方の希望で入ってもらいます。月に1回はスタッフミーティングを開いて、顔を合わせて話す機会を作ることを大事にしています。時に急なお休みもあったりしますが、その時は他のスタッフに声をかけるなどして何とか乗り切っています」(高橋さん)

スタッフの中には、調理師免許を持っている定年した方やお店を持ちたい方、年金生活の方など、年齢を重ねてきたからこその多様なバックグラウンドを持った人たちが参加してきています。なかでも、石川さんが支援センター時代から知り合いだったという精神疾患の方からは、「ぜひスタッフになりたい!」と開店当初から熱烈なラブコールを受け、最初はお皿洗い、次にお米とぎ、それから人参サラダが作れるようになって、今はお味噌汁の特訓中とのこと。定年後の人も、お店を持ちたい人も、障がい者の方も、地域の多彩な面々が「あみちえ」を支えていることが、石川さんの目指すコミュニティ・カフェの姿なのです。

「私が一番大切にしたいのは“お店の雰囲気”だと思ってます。では、“雰囲気”って何かなと考えると、お店にいるスタッフやお客様など“人“ですよね。人の価値観は、十人集まったら十人とも違うのが当たり前。あの人の考えが良い悪いではなくて、いろんな考えがあるから人って面白いんだと思うんです。みんな得意なところ、不得意なところ、凸凹があります。それをお互い認めて、許しあって、補っていきながら一緒にお店を作っていきたいですね」

(写真左)オープン当時からのスタッフ高橋智子さん。シフト調整などが苦手な石川さんの代わりに、多様なボランティアスタッフを上手にまとめる現場マネージャー。(写真右)お客さんであり、絵の先生でもあるごーぎゃんさん。絵が描けると話したのをきっかけにつけられたニックネームで、あみちえで絵の講座を開催することもある。取材当日は「立石おたがいさま食堂」に参加


ある日の石川寛子さんの一日

08:30 お店に到着(まことさんにバイクで送ってもらうことも)

09:30 高橋さん到着ランチ仕込み 開店準備

11:00 お店開店 ランチスタート 近隣のサラリーマン、OLたち、子連れのお母さんなどが来店スタッフは2~3名でまわす

14:30 ランチが落ち着いた頃、スタッフで賄いごはんを食べる ほっと一息つく時間

15:30 夜の仕込み開始まことさん、ごーぎゃんさんなどのゲストがふらりと立ち寄ることも

18:00 夜の部スタート独身のサラリーマンなどが来店手作りの家庭の味と、アルコールもいただけるので、ファミリーの来店もある

21:00 閉店。お金の計算など

22:00 店を出て、呑んべ横丁へ。気さくに話せるママさんに会いに。まだまだ夜は続く


メニュー

野菜たっぷりあみちえご飯 700円
葛飾にゆかりの深い「小松菜」を使った
小松菜コロッケプレート 700円
*ランチは売り切れまで、夜も食べられます
(18:00以降は800円)

コーヒー280円
ハーブティー280円
ケーキセット400円
よりみちセット ビール中瓶+おつまみ2品 800円 酎ハイ+おつまみ2品 600円
おつまみ 300円から
単品のビール、焼酎サワー、ワインなどもあり


店舗データ

〒124-0012 東京都葛飾区立石3-15-4
電話 03-3695-0925

京成立石駅北口から徒歩7分。 勤労福祉会館・葛飾年金事務所そば

web
https://www.facebook.com/shitamachicafe.amitie

ブログ
http://cafe-amitie.blogspot.jp/

開業年 2014年3月

席数 カウンター4席 テーブルを囲んで8名~10名

営業時間11:00~21:00
月曜日は18:00まで 木曜日は18:00~21:00
定休日  水曜日・木曜日のランチタイム

スタッフ数 7名+2、3名(不定期に入る人がいる) 
※ボランティアスタッフは、交通費+まかないつき。

店名の由来:「あみちえ」はフランス語の「Amite」。「友情、つながり」を意味している


執筆:渚いろは/写真:原光平