【私たちの見聞録】利用者みなさんの生活を共に創っていく 和が家グループ取材その2
和が家グループ代表・直井誠さんと個性あふれる愉快な介護スタッフ
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BABA lab代表の桑原とライターの渚は、50代に突入した団塊ジュニア世代です。
まだまだ先と思っていた「シニア期」がぐっと近づきました。“◯歳から”いきなりシニアになるのではなく、気が付いたらシニア行きのトロッコに乗って、緩やかな坂を下り始めたような感覚もあります。
トロッコに乗り込んだ私たち、どうせ坂を下るのであれば、「みんなで愉快に転がりたい」とも思うのです。
愉快に生きるためのヒントを得るために、今どきのシニアに会いにでかけたり、シニアが集う場所に伺ったりする、そんなコーナーが始まりました。
聞きたいこと、知りたいことがたくさんあります!いざ出発
和が家カンパニーズ株式会社(通称、以下和が家グループ) 代表 直井誠さん
前回は埼玉県蓮田市にある「ひかりサロン蓮田」(以下ひかりサロン)と和が家のくらしとシゴトバデイ「うるひら」(以下うるひら)をご紹介しました。
この二つの施設を運営する、和が家カンパニーズ株式会社(通称:和が家グループ) 代表の直井誠さんと、各施設スタッフの皆さんにお話しをお聞きしました。
海外放浪から自由な会社に入社、起業そして介護福祉の世界へ
直井さんは、大学在学中に海外ボランティアや海外放浪を経験。大学卒業後にアジア各国で働いたことで「教育が国を豊かにする」ことを強く感じ、帰国後リクルート社に入社。高校生向けの教育事業部に配属となりました。自由な社風が自身の追い風となり、仕事に邁進。その後友人と外国語教育事業を立ち上げ、全国を飛び回る忙しい日々を充実して過ごしていました。その中、親の病などで、今までの仕事や人生を見直すことがあり、介護福祉の世界に飛び込みました。
直井さん:母はずっと障がいのある兄の生活を支えていました。母が倒れたことで、やりたいことをやってきた自分の人生を見直して、母と兄のことや福祉の事にも向き合おうと思いました。それから2011年に重度認知症障がい者の施設(中重度認知症デイ「和が家の学校」。そしてその後、アルツハイマー型認知症専門デイ「和が家の古民家デイいぶき」)も立ち上げました。その後更に「ひかりサロン」と「うるひら」を立ち上げて今に至ります。
「ひかりサロン」
「幸せ」の併走に徹する
―――「ひかりサロン」と「うるひら」の両施設とも、その場にいる全員をあたたかく包み込む雰囲気があり、介護施設のイメージが変わりました。このような施設になった経緯など教えてください。
直井さん:施設を開く前にいくつかの介護現場に入りましたが、認知症に悩むご本人、ご家族がとても多いことや、認知症ケアへの対応に疑問を持ちました。そこから認知症の勉強会に参加したり、専門家から話を聞いたりしていく中で、心と脳が元気になる仕組みを知り、学んだことをスタッフに研修を行い、私たちの施設で実践していきました。
「ひかりサロン」では、来た時よりぐんと元気になって、外出や旅行を楽しんだり、介護を卒業する方が出てきたり、「うるひら」ではやれることがどんどん増えて、閉じこもりが解消したり、認知症の進度がゆるやかになる方が増えていきました。
うるひらでは各所で笑いとおしゃべりが絶えない。時に介護スタッフが利用者さんにちょっとした悩み相談をすることも
介護に関わる人が「利用者さんにとっての幸せって何だろうか?」を突き詰めて考えて、利用者さんのやりたいこと、好きなことを支える併走者として介護に真剣に取り組むことで、高齢者や認知症の方がご自身の本来の姿を取り戻して元気になるんだと思います。
もちろんうまくいかないこともたくさんあります。トライ&エラーを怖がらず、日々実践し続けること。これは介護スタッフにも機会があるごとに伝えています。
自分で考えて動く スタッフ同士の対話を重ねて実践
―――介護スタッフの雇用はどんな形で行っているのですか?
直井さん:採用面接では、グループの理念や仕事内容を重点的にお伝えします。既存の介護施設とは真逆のことをしているので(笑)、面接中にうちでの勤務が難しいと感じた時は率直に伝えます。介護職未経験の方でもうちではフィットすることが多い印象です。
採用は、うちと求人者のお互いの価値観が合うかどうかだけなんですよね。だから履歴書はあえて見ずに、施設見学や体験を通じて「和が家グループの介護」をしてみたいかを確認してもらいます。その結果、求人者の方がワクワクできるようであればきっと一緒に働くご縁があるかなと。利用者みなさんの生活を共に創っていくことにやりがいを感じてくれるのであれば、みんな幸せになれます。
「やりたいことを本気で願うと叶うんですよ」
「こんな場所でやりたい」、「こんな人に来て欲しい」と強く願っている中で、うるひらの場所やスタッフと出会えたという
―――働くスタッフに伝え続けていることや、心掛けていることなどありますか?
直井さん:「私に質問はしてもいいけど、どうしたらいいか悩んだら、まずは自分で考える。スタッフ同士で話し合って決めて欲しい」と言い続けています。特に看護師や介護スタッフは、医師や上司に指示を仰いで判断することを常にしてきた傾向が強いので、度々「どうしたらいいですか?」、「これでいいですか?」と聞いてくることが多いです。
困ったことがあったら、自分でどうしたらいいか考えてみる、それからスタッフ同士で話し合ってみる。利用者の皆さんに聞いてみる。考えてやってみて、だめだったらまた考えてを繰り返していいんですよ。失敗から人は学びます。失敗を恐れないで欲しいですね。
マニュアルやルールは出来る限りなくしたいのが本音です。マニュアルやルール通りでやっていたら、人を見ずに業務をまわすようになって、楽ではあると思いますが、心ある介護はできないですよね。
多様多彩な個性あふれるスタッフたち
直井さんの元に集まったスタッフたちは、福祉の専門学校で先生を務めていた方、長く介護職に就いている方もいる一方で、介護職とは全く異なる職種からの転職者も多くいます。バルーンアート日本一のスタッフもいるなど、個性豊かな介護スタッフが日々高齢者に寄り添っています。
「ひかりサロン蓮田」と「うるひら」で働く介護スタッフの方々にもお話をお聴きしました。
ひかりサロンスタッフ 遠藤枝里さん
「いい意味でマニュアルのない職場で、最初は何をしたらいいかわからずに戸惑いました」と話すひかりサロンスタッフの遠藤枝里さん。接客業から介護職未経験でひかりサロンで働き始めました。
「同僚に相談したり、直接利用者さんにどんなことがやりたいか聞いたりして、何度かレクを行った後に、ふっと気持ちが軽くなって、それが悩みを乗り越えた時だったのかなと思います」
先日は好きな納豆に投票する「納豆選手権」のレクを行ったところ、「うちはこれ食べているよ」、「納豆ってこんなに種類があるんだね」と利用者さん同士の会話が弾み、好評でした。
「今は次のお話や外出は何をしようか、皆さんと楽しめる企画を立てるのが楽しみです」(遠藤さん)
うるひらスタッフ 照井益美さん
「利用者さんとカレーの材料を買い物して、作る段階で『肉じゃがにしよう』ってメニューが変わることはしょっちゅう。毎日アドリブです(笑)。それがまた楽しくって」と満面の笑みで話すのは、施設の立ち上げ初期から勤める照井益美さん。
「利用者さんから思い出のある温泉にまた行ってみたいという話を聞いて、私の思いつきでその温泉の素を取り寄せ、お風呂を温泉風に飾りつけして入浴介助を行ったことがあります。利用者さんは『温泉に来られた!』と、とても喜んでお風呂に入っていました」
和が家グループでは、利用者さんのやりたいことを叶えることであれば、基本、担当スタッフの判断で進めるのが当たり前。そのためには、利用者さんとそのご家族、介護スタッフ同士の連携、信頼関係が不可欠です。
料理や盛り付け、配膳、お皿洗いまで、やりたい人が自主的に行う。介護スタッフはそばで見守りに徹する
和が家グループでは、働くスタッフ全員が「利用者さんの幸せ」を一番に考える想いを持ち、介護スタッフ同士の「対話」を大切にしています。
定期的に代表を交えた話し合いや、スタッフ同士でのミーティングを重ねて、よりよい介護を行うために思考錯誤しながら、和が家グループの土壌をはぐくんでいます。
―――最後に、直井さんの考える「長生きが悪くないと思える社会」とは、どのようなものでしょうか?
直井さん:自分としては50歳を過ぎたので、与えられた身で自分が考えていること、出来ることをみんなと共に微力ながら続けていきたいと思っています。
じゃあ、自分は何が出来るか?何をすることで高齢化社会など地域に貢献できるのか?
今、日本は世界で一番高齢化率が高く、「孤立・孤独社会」の真っただ中です。先進国で一番自殺率が高く、生きにくい社会とも言われています。
孤立・孤独社会になると、人は閉じ籠りやうつ、認知機能の低下、フレイル等の症状が出やすくなってしまう。その状態が今の日本なんですよね。
今の日本に必要なのは「困った時に支え合える人とのつながり」です。
それを「他人事」ではなく、「自分事」と思えること。
これだけ認知症の人が多いのですから、私も認知症になるかもしれません。
認知症になることを自分事として捉えると「認知症を嫌なものではなく、自分が認知症になったとしても生きやすい地域を作ること」が必要であり、大事なことだと思います。
「認知症だから」と排除したり、隠したりするのではなく、どんな状態であっても、みんなで支えあうのが当たり前な「寛容な社会」になると、誰でも生きやすいですよね。
「あの人は認知症だ」「あの人はわからないことばかりだ」と人を評価したり、レッテルを貼ったりせずに「ただの1人の人間だ」と思えることも寛容な社会づくりには大切だと感じます。究極、自分も他人も一緒、同じ人間なんです。認知症であっても、なくてもどちらでもOKなんですよね。
介護スタッフや利用者さんと毎日を過ごす中で、自分のためだけに何かをするよりも、誰かのために動けた方が幸福感は高いと強く感じています。利他の心というのでしょうか?介護福祉の仕事をしているうちのスタッフや高齢者の皆さんは、毎日本当に笑ってばかりいます。自分も含めて幸せそうです(笑)。
高齢者の孤立孤独問題による寂しさや虚しさから抜け出して、活き活きとみんなで「許し合い、認め合い、喧嘩してもまあいいかの精神で、思いやりのある声がけをし合い、笑い合い、支え合える共生社会づくり」をしていきたいと思っています。これって、高齢者だけの問題ではないですよね?
そういう人たちが増えて、「恩送りの精神」が当たり前となり、「助け合いの輪の中にいる」という共生社会の一員になれると、誰もが「長生きしても悪くない」と思えるのではないでしょうか?誰もが平等に年をとるわけですからね。
ライター 渚いろは/カメラマン remi
和が家グループ代表・直井さんと介護スタッフのインタビューを終えて
BABA lab代表 桑原静
「私にとっての幸せってなんだろう」と直井さんの話を聞き、自分に問いかけてみても答えは出ませんでした。高齢になること、認知症になることへの「恐怖・不安」も、自分が生み出しているもので、払拭することもできます。なにが幸せか、なにが不幸なのかは自分で選択することができるという、当たり前のことにあらためて気づかされた取材でした。年を取ることに不安な人はぜひ直井さんに会ってほしいです(笑)。
ライター 渚いろは
直井さんの大学時代の海外放浪、企業勤務、起業、そして和が家グループを立ち上げるお話から、「まずはやってみる」「トライ&エラー」の実践に辿りついたことが腑に落ちました。「やりたいことを本気で思うと叶う」は、じわじわと今も心に響き続けています。自分の考え方が年を重ねてやや固定されてきた感じがあったところに直井さんの話はとても刺激的でした。これからの活動がどんな形になるかも追っていきたいです。
ひかりサロン蓮田
住所:埼玉県蓮田市東5-8-65 東武ストア蓮田マイン店2F
事業内容:地域密着型デイサービス/通所型サービス
※営業日、利用可能者、送迎エリアなど詳細は和が家グループ公式サイトを参照
和が家のくらしとシゴトバデイうるひら
住所:埼玉県蓮田市井沼988-1
事業内容:通常規模型デイサービス/通所型サービス
※営業日、利用可能者、送迎エリアなど詳細は和が家グループ公式サイトを参照
和が家カンパニーズ株式会社(通称:和が家グループ)
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