【私たちの見聞録】超高齢社会をゲームで体感 地域課題を自分ごとにする力前編:地域の困りごとが体感できるボードゲーム誕生秘話

 超高齢体験ゲーム「コミュニティコーピング」
一般社団法人コレカラ・サポート 理事 佐藤達哉さん

  • BABA lab代表の桑原とライターの渚は、50代に突入した団塊ジュニア世代です。

    まだまだ先と思っていた「シニア期」がぐっと近づきました。“◯歳から”いきなりシニアになるのではなく、気が付いたらシニア行きのトロッコに乗って、緩やかな坂を下り始めたような感覚もあります。

    トロッコに乗り込んだ私たち、どうせ坂を下るのであれば、「みんなで愉快に転がりたい」とも思うのです。

    愉快に生きるためのヒントを得るために、今どきのシニアに会いにでかけたり、シニアが集う場所に伺ったりする、そんなコーナーが始まりました。

    聞きたいこと、知りたいことがたくさんあります!いざ出発

日本が高齢化社会に突入したと言われ始めたのは、65歳以上の人口割合が7%を超えた1970年でした。そして、1994年には高齢化率は14%を超えて「高齢社会」に、2007年には21%を超えて「超高齢社会」といわれるようになりました。

2024年10月1日時点では、高齢化率は29.3%と過去最高を更新。2060年には約40%に達すると見込まれています。

超高齢社会を生きる私たちですが、生活の中で実感することはありますか?

超高齢社会で実際にどんなことが起こっているのかを、ボードゲームで体験できる「コミュニティコーピング」を開発、普及を務める一般社団法人コレカラ・サポート理事の佐藤達哉さんにお話を聞きました。

東日本大震災から見えた“地域の限界”と気づき

佐藤達哉さん 

―――超高齢社会体験ゲーム「コミュニティコーピング」が生まれたきっかけを教えてください。

佐藤達哉さん(以下、佐藤さん):東日本大震災が起こった2011年に団体代表の千葉が、ファイナンシャルプランナーとして、高齢者やそのご家族を支援する中での気づきが原点になります。大きな災害などの有事が起こると、高齢者自身だけでなく、家族の支援体制も崩れてしまいます。困りごとが解決できず、高齢者と家族が限界に追い込まれてしまう場面を、千葉は何度も目の当たりにしました。平時から当事者や家族、支援者のつながりが必要だと強く感じて、地域住人や支援者同士をつなぐ仕組みづくりや、サポートを行う団体「コレカラ・サポート」を立ち上げました。

支援者を支える視点として、千葉は課題と向き合う・対処するという意味を持つ心理学用語の「コーピング」に出会いました。独学でコーピングについて学び、地域と住人、支援者につながりを生み出すコーピング講座を開催したのですが、全く人が集まりませんでした。

どうやったら、コーピングを届けたい人に届けられるか、広めていけるかを突き詰めた時に「ゲーミフィケーション」という考えにたどり着きました。ゲーミフィケーションは、難しい課題もゲームを通じて楽しく経験することで気付きを得るという考え方です。「人は自分で気づいた時に一番動くもの」ならば、気づきの場をゲームで作ろう!と決めました。

―――コーピングを支援者に伝えるために、ゲーム作りが始まったんですね。それは意外でした。

佐藤さん:千葉が現場で体験した「リアルな地域の困りごと」は100以上ありました。それをどうやって支援者に伝えて、地域がつながることができるか。そのツールとしてゲーム制作にいたりました。

当時、団体にボードゲームの製作経験があるメンバーがいて、「地域課題を地域の人たちや支援者同志で解決するボードゲームが作りたい」と話したところ、すぐに、千葉が現場で体験した「リアルな地域の困りごと」を次々にカードやボードに落とし込んでくれました。いい形でゲーム制作のスタートが切れた2020年、新型コロナウイルスの蔓延で緊急事態宣言が発令されて、全国的に外出自粛の雰囲気になってしまいました。

対面でのボードゲーム体験会を開くのが難しくなってしまったことから、一般公開されているWebツール「ユドナリウム」を使って、オンラインゲームの形にしました。

画像提供:一般社団法人コレカラ・サポート

ボードゲームは、コミュニティとコーピングを足した造語「コミュニティコーピング」と名付けられ、2020年10月からオンラインゲームでの体験会をスタートしました。その後ゲームのブラッシュアップを重ねて、2021年には念願の対面版のボードゲームが完成しました。オンラインと対面型、ハイブリットでの体験が可能となったせいか、全国各地からゲーム体験に参加していただいたおかげで、リピーターも含めて体験者は5年間で延べ2万人近くになりました。

超高齢社会体験ゲーム「コミュニティコーピング」について

地域と地域資源をつなげて、悩みを抱えた人の社会的孤立を解消する協力型ゲームです。悩みを抱えた人が6つの地域のどこかで次々と登場します。プレイヤーは、悩みを抱えた住人に悩みを解決できる地域の人を紹介していきます。同じ地域に悩みを抱えたまま解決できない住人が4名以上、その年の最後にとどまると、地域体制の崩壊となってゲームオーバーとなります。ゲームは2021年からスタートし、2030年まで地域が存続できればゲームクリアです。

協力なしにはクリアなし 参加者同士の振り返りが鍵

―――ゲームの特徴を教えてください

佐藤さん:まず、参加者同士でコミュニケーションをとって協力しないと、ゲームが進まないことです。一人で進めようとしても地域住人の悩みを解決できず、カードが積みあがる仕組みを取り入れました。参加者同士、地域でのつながりを作り、役割を分担しないと先には進めない、現実の地域課題解決と同じ構造です。

次にゲームをクリアできる割合は1割と、ゲームの難易度を高くしました。むしろたくさんの失敗をして、気づきを得てほしいと考えています。ゲームの中で安全に失敗して、リアルの生活のなかでアクションを考えるきっかけにしてほしいと思っています。

「理事4名でゲームをやってもなかなかクリアまではいけないんですよ。そこがこのゲームの面白いところです」(佐藤さん)

3つ目は特に大事にしているところで、ゲーム開催には、必ずファシリテーターを入れて、ゲーム後に参加者全員で振り返りを行うことです。振り返りがゲームの一番の核にあたるところだと、ファシリテーターには強く伝えています。

振り返りは、ゲームから現実に戻る時間で、「ゲームで体験したことを、あなたの住んでいる地域に置き換えた時に、あなたは地域で何ができますか?」とファシリテーターが参加者に問いかけます。参加者は振り返りでゲーム体験で感じたことを自分ごとにして、持って帰ることまでが、「コミュニティコーピング」なのです。

ゲームに参加した方が、自身で体験会を開きたいとおっしゃることが多く、全国に約500名の認定ファシリテーターがいます。ゲーム単体での販売はしておらず、ファシリテーター養成講座を受講した後に、ゲームキットを送付して普及をお願いしています。

画像提供:一般社団法人コレカラ・サポート

画像提供:一般社団法人コレカラ・サポート

小学生の一言が教えてくれた大切な視点

―――どんな方が体験会にくるのですか?

佐藤さん:個人で来られる方は、小学生から大人までいろんな方がいます。多いのは、医療・福祉関係者など支援職の方です。自治体、行政の研修や高校、大学の授業の一環としても取り入れていただいています。行政の研修では、異動で福祉関係の課に配属された方向けや新人研修で使われています。コロナ禍で福祉系大学の生徒が実習に行けなかった時に、ゲーム体験を活用いただいたこともあります。1度体験した方が、お友達や知り合いを誘って何度も参加されることも多いです。毎回、参加者もゲーム内容も変わるので、常連さんも結構います。

―――体験会で印象的なことはありましたか?

佐藤さん:小学生と大人がゲームをする中で、小学生の子が、ある住人カードを指さして「最初に出てきたこの人、誰も話をきいてあげていないよ」といったのです。大人たちはつい、大きな困りごとがある人を早く解決に向かうように考えるのですが、その子は時間軸で対応できていない人に目を向けていました。それを聞いた大人の参加者はみんな、はっとした表情になっていました。

また、支援の現場にいる方が、住人カードの悩みを見て、「この人をやっつけよう(解決しよう)」と口にしていることも時折見受けます。ゲーム中つい、出てしまった言葉かもしれませんが、言葉にした方は、振り返りで大変反省されていました。

各市町村の重層的支援体制整備事業担当者が集まって開催した研修では、ゲーム終了後、担当者同士の会話が盛り上がって、各自治体の課題を熱心に相談しあう姿がありました。ゲームが参加者の共通言語になる場面に出会えると胸が熱くなります。

ゲーム自体は「無色透明」であって、体験者が自分なりにゲームを理解して、取り組みを言葉にして、目標を設定したり、プロセスを想像したりと自由に使ってもらいたいと思っています。

この後、わたしたちは超高齢社会体験ゲーム「コミュニティコーピング」を体験しました。後編に続きます。

(後編に続く)

参考:日本の超高齢社会の特徴(公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット)

https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/nihon.html

内閣府 令和7年版高齢社会白書 1,高齢化の現状と将来像 第1章高齢化の状況(第1節 1)

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_1.html

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【私たちの見聞録】海外との交流プログラム実施レポート Singapore University of Social Sciences